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Introduction to Parchment 羊皮紙とは

「羊皮紙」とはなにか。
イメージとしては、ふるーい古文書、宝の地図、ハリーポッターやファンタジーの世界・・・。映画などで見たり聞いたことはあるけど、本物は見たことない。そういう方がほとんどでしょう。

ここでは、特に日本ではなじみの薄い「羊皮紙」についてご紹介していきます。

羊皮紙の作り方については作り方のページをご参照ください。


1. 羊皮紙って紙なの?

羊皮「紙」というくらいだから紙なのでしょうか。いいえ、答えは「皮」です。「羊皮紙」ではなくて、「羊皮」と書くべきなのかもしれません。
詳しくは作り方に載せてありますが、おおまかに言うと、羊皮紙とは、「羊(または他の動物)の皮を木枠に張って限界まで伸ばし、ナイフで削って薄くして乾燥させたシート状のもの」です。植物の繊維をからませた「紙」とは根本的に違います。


では、「紙」ではないとして、「革製品」とは何が違うのでしょうか。一般的にいう「革」とは、動物の生の皮(「原皮」といいます)を石灰につけて毛や脂肪などを除去して、それからタンニンや酸などに漬け込んで化学反応を起こさせ、原皮の繊維構造そのものを変化させたものです。これを「なめし」といいます。

一方、羊皮紙は、原皮を石灰につけて毛や脂肪などを除去するところまでは同じです。ただ、その後専用の木枠に張って思いっきり伸ばし、繊維を「化学的」にではなく、「物理的」にピンと張った状態にして乾燥させ、その状態で固定させたものです。そのため、羊皮紙を作ることを「羊皮紙をなめす」とは言いません。羊皮紙をなめすと普通のレザーになってしまいます。


木枠での張り伸ばし工程 (当工房にて) 

羊一頭分の羊皮紙 


皮はコラーゲンの繊維からできていますが、通常は立体的に、ランダムに絡み合っています。皮を四方から引っ張って伸ばすことで繊維が平面的に並ぶようになり、ハリのある「紙」のような質感になるのです。

1731年のイギリスの羊皮紙公文書 左の公文書を200倍に拡大。
コラーゲン線維が見えますね。


そのようにして作られた羊皮紙は、皮でありながら紙のように張りがあり、かつインクや絵具のしみこみが紙よりも少ないため、顔料がくすまず鮮明な色彩を保ちます。

また、きちんと管理すれば羊皮紙に書かれた文書や細密画は1000年以上も本来の色彩を保ちながら残ることができるのです。
ケルズの書 ヨハネの福音書扉 西暦800年ごろ
ダブリン大学トリニティーカレッジ博物館蔵



2. 本物の羊皮紙と「羊皮紙風」の紙 〜どうやって見分けるの?〜

さて、下の2枚の写真のうちどちらが本物の羊皮紙かわかりますか?


1. 2.
   


答えは 1 番の写真です。2番の写真は、「羊皮紙」として売られている「紙」です。これは、「羊皮紙風」のテクスチャをしたちょっと高級な「紙」です。本物の羊皮紙はごく限られたお店でしか手に入らないのですが、一般の画材屋さんなどでは、特に注意書きもなく普通の紙を「羊皮紙」と名をつけて販売していることがあります。本物の羊皮紙を見たことがない場合、見分けるのも難しいですよね。
ここでは、本物の見分け方を一部ご紹介します。



 値段

本物の羊皮紙ははっきりいって高いです。当工房で販売しているものは、A4サイズで2600円です。他ではもっと高いところもあります。「紙」と名がついてしまっているので、本物の値段を見ると、「紙なのになんでこんなに高いの?」と思ってしまいます。しかし、革製品の値段はどうでしょうか。「本革」というラベルがついていると、高級品のイメージですよね。羊皮紙も、材料的には「本革」と同じです。しかも一枚の羊皮紙を作成するためには何日もの時間と根気のいる職人の手作業が必要なのです。現在は需要もそれほど多くないことから考えると、高くなるのが当然といえるでしょう。

A4一枚数十円や数百円であるなら、間違いなく羊皮紙風の「紙」です。


 色とテクスチャ

紙は一般的に表裏同じ色、テクスチャですが、羊皮紙は表裏に違いがあります。
動物の皮には、「毛側」(銀面とも呼ばれる)と「肉側」という表裏の区別があります。つまり、毛がついていた側と、肉にくっついていた側があるのです。一般的に、毛側は若干色が濃く、毛穴の跡や色の濃淡が目立つ場合がありますが、肉側は白に近い色で、スムースです(スエードのように若干毛羽立っていることもあります)。

また、毛側と肉側では繊維の伸び縮みの率が違いますので、下の写真のように毛側に若干カールしたり、うねっていたりする場合があります。

羊皮紙の毛側 羊皮紙の肉側


ただ、本物でも毛側を完全に除去している場合(主にヨーロッパの羊皮紙)は、真っ白で表と裏の区別がほとんどない場合がありますし、裏表で違う色の「紙」もありますので、決定的な区別法ではありません。


 水に濡れたときの状態

識別するのに分かりやすいのは、水にぬらしてみることです。(購入後の確認になりますが)

注: 濡らす場合は、切れ端を使用してください。全体を濡らしてしまうと、羊皮紙がダメになります。

本物であれば、水に浸しておくと、プルンプルンになります。つまり、動物の生皮に戻るのです。伸ばすと、ゴムのように伸びます。
一方、紙もともとバラバラになった植物繊維をくっつけてできていますので、ぬらすと繊維のむずびつきが緩みます。そのうちやわらかくなって、簡単に破れるようになります。

濡れた皮。プルプルになるだけで破れない。
ゴムのように伸びる。
濡れた紙。簡単に破れる。



 顕微鏡で拡大してみると・・・

羊皮紙を顕微鏡で拡大してみると、コラーゲン線維のからみが見えるのと同時に、あー昔は動物だったんだな〜ということが良く分かる痕跡を見ることができます。ここでは、14世紀初頭フランスの羊皮紙写本を10倍と、200倍に拡大してみて見ましょう。

西暦1300年前半フランスの祈祷書
上: 顕微鏡で10倍に拡大。なにかブツブツが。
下: 顕微鏡で200倍に拡大。毛根が見えます。


よーく見てみると、毛です!毛がまだ残っているのです!毛根が褐色ですので、この写本の羊皮紙は毛が褐色の動物から作られたのではないかということが推測されます。今から700年前のフランスの牧場の風景までもが浮かんでくるようですね!?このような観察によって、文字で書かれている以上の隠された情報が現代に生き返ってくることがあります。紙にはない醍醐味ですね!

(注: 毛側の表面を完全に除去してある羊皮紙の場合は毛根は見えません。)




3. 羊皮紙ってどんな種類があるの?

日本語では、「羊皮紙」というと即「羊」を思い浮かべますが、実はさまざまな動物の皮が使用されています。「獣皮紙」や「皮紙」と言ったほうが適切なのですが、言葉自体一般的でないので、ここでは、「羊皮紙」という言葉で統一します。表面のテクスチャなどは動物によって大きく異なります。また同一の動物の場合でも、毛の色などによって羊皮紙の色が異なります。

右から: 牛、羊、山羊

 羊皮紙?パーチメント?ヴェラム? 〜呼び方の違い〜

日本では「羊皮紙」と言われますが、英語では動物から作った「獣皮紙」のことを「パーチメント(Parchment)」と言います。その中でも仔牛からつくったものを特別に「ヴェラム(Vellum)」と言います(ラテン語の「仔牛」= Vitelusより)。しかし、薄く削るとなんの動物かわからないため、山羊皮でも薄くて品質のよいものは「ヴェラム」と呼ぶかたもいます。(コミュニティによって呼称は若干異なります。)

 動物による違い

薄くて柔らかい。表面もなめらか。ただし皮膚に含まれる脂が多いため、製造には手間がかかる。
仔牛 一般的にヴェラムと呼ばれ、薄くてスムーズ。特に死産の仔牛を使ったものは「スランク・ヴェラム」「ユーテライン・ヴェラム」と呼ばれ、最高級の皮紙。ヨーロッパの写本の多くは仔牛皮。
山羊 純白に近い表面色が多い。毛穴が目立ち、また毛穴が3つづつまとまっている場合が多い。イタリアの写本の多くは山羊皮。羊皮紙発祥の地といわれるペルガモンでも山羊が主流だったといわれています。
鹿 表面が非常になめらかで、手触りがしなやか。
日本では原皮が手に入りやすい。毛穴が山羊よりも目立つ。本のカバーなどに利用されている。ただ、毛穴が目立ちすぎることと宗教上の理由から写本にはほとんど使用されませんでした。

 削り方

皮は、大きく分けて4層の構造になっています。どの層を使うか、また表裏どの面を主として使うかは、地域や用途、宗教思想によって異なります。

<皮の構造>


まず、毛側を上にして見て、表面の薄皮と、肉に直接接していた下皮は脂肪などとともに除去します。
一般的にヨーロッパでは、毛側と肉側を削っていって、一番白い「網状層」を使用します。こうすることによって、表裏がだいたい同じ色、テクスチャとなります。これは羊皮紙の両面を使う「冊子文化」に起因しているのでしょう。
アイルランドの羊皮紙(仔牛、毛側) 表裏同じ色

イスラエルなどのユダヤ教世界では、昔は皮のどの面も除去せずに、そのまま使用しており、製法も「羊皮紙」というよりも「革」に近く、表面が「なめされた」状態となっているものが多いようです。この場合は、毛側に文字を書きます。
いつしか、なめさずに木枠に張って伸ばす方法が主流となりました。削り方は、表皮と下皮を削り落とし、乳頭層と、網状層を使用します。毛側をほとんど削り落としていないため、ヨーロッパの羊皮紙よりも毛側の色が濃く、模様もそのままです。また文字は白い面(肉に面していた側)に書かれます。これは、片面筆写の「巻物文化」に起因しているのでしょう。また、ヘブライ語などでは点の位置で発音や単語の意味が変わるため、「毛穴ひとつ」で聖書の解釈が変わってしまう可能性だってあるんですねー!
また、毛側の方が繊維が固く丈夫なので巻物の「裏側」として使われて、文書が破れないようにする役割がありました。 。

イスラエルの羊皮紙(仔牛、毛側) 表裏違う色。肉側は真白。
肉側のみに文字を書きます。
ユダヤ教の聖典トーラーの巻物

アラブ世界では、11世紀くらいまでコーランに羊皮紙を使用していました。削り方に関しては、たいたいヨーロッパとユダヤの中間くらいと言えます。つまり、若干「乳頭層」が残っていて、毛側がほんのりと黄色っぽい羊皮紙が多いのです。羊皮紙を使用していた時代のコーランはかなり大きな文字でかかれることが多かったため、毛穴くらいの点では聖典の誤解は生じなかったのでしょう。

ビザンチン(東ローマ帝国)の羊皮紙も独特の特徴があります。詳しい説明は「羊皮紙紀行 Vol. 6 イスタンブール編」に掲載しましたので、ご覧ください。

聖書にコーラン、歴史書に公文書、これらは羊皮紙に記されて現代まで伝わってきました。
私たち人間の歴史や信仰は、牛や羊たちの皮膚によって支えられてきたんだなーと思うと、本当に不思議ですね。

※ ちなみにほとんどの場合、「羊皮紙を作るためだけに」動物たちが屠られることはなく、肉を食べて毛を取った後残った部位として皮を利用していました。(革靴を作るためだけに牛を屠っているわけではないのと同様)羊皮紙を使っていた時代は現代ほど食もモノも豊かではなかったため、貴重な家畜の使えるところは余すところなく使っていたのでしょうね。

羊皮紙についてより詳しい研究は、「羊皮紙研究」のページに掲載しました。


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