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Parchment Journey vol. 5
羊皮紙紀行 Vol.5 〜 羊皮紙誕生の地 ペルガモン
(トルコ ベルガマ)〜

羊皮紙紀行Vol.5は、紀元前2世紀に羊皮紙が誕生したといわれるペルガモン王国の地、トルコ ベルガマの街を訪れました。2010年に初めて訪れ、2013年にはベルガマ市主催の国際ペルガモンシンポジウムで羊皮紙専門家の世界的な集まりがありました。


アクロポリスにあるトラヤヌス神殿

紀元1世紀ローマの学者で政治家のプリニウスによって著された、羊皮紙の誕生についての次のような記録が残っています。

「プトレマイオス王とエウメネス王の間で図書館についての争いがおこり、エジプトはパピルスの輸出を停止した。そのためペルガモンにて羊皮紙が作られるようになった。その後、人間の永遠の歴史を支えることになる羊皮紙は広く世界に広まった。」 (プリニウス「博物誌」 XIII 21, 70)

実際の理由は図書館同士の競争というよりも、当時エジプトとセレウコス朝の戦争が激化し、パピルスの輸出ができなくなったという説や、エジプト国内でのパピルス不足という説の方が有力であるとも言われています。


いずれの理由にしても、筆写材料がなくなってしまう危機にさらされたペルガモンは、従来から小アジアを含む中東地域で行なわれていた「動物の皮に筆写する」という方法をさらに進化させ、パピルスに勝る書き味、耐久性を持つ「羊皮紙」が作られたのです。

「羊皮紙」を表す英語「パーチメント」の語源は、まさにここ「ペルガモン」にあります。ペルガモンはのちにローマ帝国の一部となり、ペルガモン産の羊皮紙がローマに供給されるようになり、ローマ人はそれを「ペルガモンの紙」 = 「Carta Pergamena」と呼び、それがPergamena => Parchmentと発展していったのです。

ベルガマの街

ベルガマは、トルコのエーゲ海沿岸から少し内陸に入ったところに位置します。ベルガマへの道にはオリーブの山が続き、エーゲ海の雰囲気を醸し出しています。



ベルガマの位置


延々と続くオリーブの風景

また、山の斜面では山羊や羊の放牧の光景が多く見られます。現在トルコで作られている羊皮紙はほとんど山羊皮で、羊もたまにあるのですが、この光景を見るとその理由がよくわかります。



山羊の放牧


羊の放牧



ペルガモン図書館

ベルガマの街の北にある山の頂上には、アクロポリスがあり、ペルガモン王国の栄華を現代にまで伝えています。



アクロポリス遠景


トラヤヌス神殿

アクロポリスを巡ると、ともすると通り過ぎてしまうような廃墟があります。それが、プリニウスの記録にも出てくる「ペルガモン図書館」跡です。この図書館には最盛期で20万巻以上もの巻物が所蔵されていたと言われています。実際に図書館跡の中に入ってみると、20万巻も入ったのかな〜と思うくらい、意外と小さな印象がありました。しかし、この図書館があったからこそ、羊皮紙が「発明」されたことを思い、羊皮紙の「聖地」にやってきた感慨にしばし耽りました。



ペルガモン図書館跡

アクロポリスを下ったところのベルガマ川沿いに、崩れた建物があります。これは1979年に建てられた皮革工場の跡地です。トルコ政府が川沿いでの皮革加工業務を禁止したため約25年前から廃墟になっているいるということです。この建物が建てられる前からここは皮革工場だったらしく、またこの跡地のすぐ横にはヘレニズム時代の柱が残っているため、昔からここで革の加工と羊皮紙製造がおこなわれていた可能性もあります。



ベルガマ川沿いの皮加工場跡


皮の加工槽



ペルガモン羊皮紙復興の動き 〜ペルガモン・パーチメント〜

「羊皮紙の聖地ペルガモン」を、芸術を通して復活させようという動きが2006年からベルガマの街で始まっています。
ベルガマ文化芸術基金の会長であったマジット・ゴンリュギュル氏により立ち上げられたこの組織は、ベルガマで作った羊皮紙に地元アーチストであるデメット・サーラムさんの絵画、そしてマジットさんの娘であるアイジャ・ゴンリュギュルさんのアラビア語カリグラフィーなどを施した作品を制作・販売しています。
メインストリートのアタチュルク大通り沿いに、「ペルガモン・パーチメント」の店舗があり、2号店も古代ヘレニズム時代の診療施設の遺跡である「アスクレピオン」の脇にあります。



アタチュルク大通り沿いの1号店


アスクレピオン脇の2号店

店内には、山羊皮を枠に張った形で、大小多数の絵画作品が展示・販売されています。


店内



数々の作品が展示・販売されている


伝統的な文様の作品





アラビア文字カリグラフィーの作品

オーナーのマジット・ゴンリュギュル氏(左)と
アーティストのデメット・サーラムさん(右)

マジット氏は伝統楽器ウードの名手。
娘さんのアイチャさんはプロの伝統歌手

彼女の歌はYouTubeで聴くことができます。



国際ペルガモンシンポジウム


2013年5月11日に「国際ペルガモンシンポジウム」が開催され、3度目のベルガマ訪問をしました。2014年の世界遺産登録候補地であるベルガマをアピールするために選ばれたテーマのひとつが、「羊皮紙」でした。2012年にペルガモン・パーチメントのマジット氏の依頼で、世界の羊皮紙関係者で参加できそうな方々をリストアップするとともに、プログラムの大枠を考えて、ベルガマ市役所に提出する形で企画段階から参加させていただきました。

シンポジウムでは、ベルガマ市メフメト・ギョネンチ市長出席のもと、トルコ文化観光省で文化財修復を担当されているニル・バイデル氏、デンマーク王立図書館のユージ・ヴヌーチェク氏(Jiriと書いてユージと読む)、アメリカニューヨークの羊皮紙職人ジェシー・マイヤー氏、イスラエルのギネスブック保持者のカリグラファーであるアブラハム・ボルシェフスキー氏など5か国の羊皮紙専門家がそれぞれの発表を行いました。

トルコ文化観光省のニル・バイデル氏からは、トルコにある羊皮紙コーランの保存・修復の問題について、図書館職員が羊皮紙と紙との違いを認識していないため、羊皮紙コーランの冊数など正確な記録さえない状態である現状の報告があり、またデンマーク王立図書館のユージ・ヴヌーチェク氏からは、自らの羊皮紙づくりの体験に基づいて、図書館に所蔵されている羊皮紙本のページに残るムラや模様から動物の部位を特定する試みについての発表がありました。私は「極東における羊皮紙普及活動について」という題目で、羊皮紙文化から遠く離れた日本での羊皮紙活用例などの発表を行いました。その他現代的な機械を使用しての羊皮紙作りの紹介や、トルコ国内の皮革加工の歴史と現状、トルコ・イズミールにある紙の博物館紹介などさまざまな題目で「羊皮紙」が取り扱われ、充実したシンポジウムとなりました。


ニル・バイデル氏

ジェシー・マイヤー氏

ユージ・ヴヌーチェク氏(右)

私(右)

その後、場所を移してベルガマで唯一、現在もほそぼそと羊皮紙制作を行っているイスマイル・アラチ氏(当時83歳)の工房で、「伝統的な羊皮紙づくりワークショップ」を行いました。ペルガモン王国のアクロポリスのすぐ下に位置する絶好のロケーションで、ワークショップの司会進行を行う機会をいただきました。ベルガマ市長にもご参加いただき、初めて作る羊皮紙に興奮されている様子でした。


羊皮紙づくりワークショップ in ペルガモン


ベルガマ市メフメト・ギョネンチ市長(左)と世界遺産担当ネスリン・エルミシュさん


羊皮紙チーム
左から: デンマーク王立図書館ユージ・ヴヌーチェク、ペルガモン最後の羊皮紙職人イスマイル・アラチ、
ペルガモン・パーチメントのアーティスト・デメット・サーラム、ニューヨークの羊皮紙職人ジェシー・マイヤー、私


2014年夏にベルガマ市が世界遺産に認定されることを心より願っています。


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